すばしっこいあかぎつねとのんびり屋の仔牛のささやかな冒険談/宮沢賢治「黒葡萄(くろぶだう)」

宮沢賢治「黒ぶだう」

「黒葡萄(くろぶだう)
宮澤賢治/作 たなかよしかず/木版画 未知谷

宮沢賢治作品が、白黒刷り(一部単色カラー刷り)の
ノスタルジックな木版画を施した絵童話として
よみがえりました。

基本的に、見開き頁の右頁は文、左頁は絵という
装幀で、1冊の中に多数の、たなかよしかずさん制作木版画を
味わうことができます。

赤狐が仔牛を誘い、ベチュラ公爵の別荘へ
忍び込むという、ハラハラドキドキの冒険談です。

野生の赤狐は大胆ですばしっこく
家畜の仔牛は従順で思ったことも うまく言えずに
赤狐に言われるまま、お屋敷の中をめぐります。

ひとつの開け放しにしてある部屋の円卓の上に
美味しそうな黒ぶどうが 置いてあり
赤狐は「さあ食べよう」とぶどうのつゆだけ吸って
皮と果肉は絨毯の上にはきだしました。
仔牛も赤狐に言われぶどうを食べるのですが
種をコツコツかみ砕いて 食べました。

その時、友人の侯爵や伯爵や女の子が
部屋へやってきました。
赤狐は、バルコニーからひらっと下におりて
うまく逃げるのですが
仔牛は逃げられず残ってしまいました。
が、人間にとがめられるどころか
女の子から黄色いリボンをむすんでもらうの でした。

この「黒ぶだう」は、花巻出身の著名人菊池捍(きくちまもる)の
別荘をモデルにし、菊池捍をとりまく人々の関係と
島崎藤村の「狐のわざ」をモチーフに
創られた寓話だということです。

また、野生動物と家畜がそれぞれ生きていける
理想郷が描かれているといえる そうです。

牛は人間との絆が深く、別荘にしのびこもうとも
黄色いリボンをもらえるほど
愛され、信頼されているということでしょうか。

赤狐もまったく憎々しくは描かれておらず
物語をひっぱる案内人のような 役割で
最後には牛と人間を結び付け去っていくという役どころです。

物語の背景など知らなくても
仔牛のひとりごと(声には出てなく心の声ですが)が、ユーモラスで
すばしっこい赤狐と、のんびり屋の仔牛との
やりとりなど、大変楽しめる作品です。

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